彩球オーディオ俱楽部

74回作品発表会

 

 

 

 

2024121日(日)に、埼玉県春日部市にある「やまや新館」にて、彩球オーディオ俱楽部の第74回新春発表会が開催されました。開催日当日は降雪の予想も出ており、朝から冷たい雨が降るあいにくの天候となりましたが、関東近県および遠くは静岡県から50名の熱心なオーディオファンが集まりました。

 

当倶楽部では、いつも新春発表会で自作スピーカーシステムを発表しています。今年も第1部では「小型スピーカーの楽しみ方」というテーマで、会員6名のスピーカーシステムが発表されました。続いて第2部では協賛企業である株式会社トライオード様の製品デモンストレーション、第3部では小澤隆久先生による「小澤式ステレオ再生の試聴」というテーマでの講演、第4部が昨年12月に永眠された関口英雄先生の追悼プログラムとなりました。

 

 

会場のやまや新館

 

 

 樫村会長による開会の挨拶に続き、病気のため引退した三須氏に代わって副会長に就任した上野氏と、2024年の執行役員に選ばれた村山氏、高久氏、野中氏、磯貝氏の紹介がありました。上野氏はMJ無線と実験誌のライターでもあります。

なお、今回の発表会に用いたCDプレーヤー、プリアンプ、パワーアンプ等は、すべて株式会社トライオード様から提供していただきました。厚く御礼申し上げます。

 

 

 

 

 

第1部 作品発表

 

いつもの発表会と同様に、25分の持ち時間の中で課題曲を演奏したあとに出品者が選んだ曲を数曲演奏するという形式で進められました。課題曲はSusan Osbornの「When You Wish Upon A Star」(MJ無線と実験 オーディオ・テクニカルCD No.13MJCD-1012)です。遠方から参加された谷本氏を除く5名の会員のスピーカーシステムについては、事前に距離1mでの音圧周波数特性を測定してプログラムに添付しました。(本レポートでは出品作品の写真の横に添付しています。)

 

作品発表に用いたトライオード社の製品は、下記のようなラインナップとなっています。ただし、中島氏と栗田氏のスピーカーシステムはパワーアンプが内蔵されているので、プリアンプのアナログ出力をスピーカーに接続しました。

CDプレーヤー: TRV-CD6SE

D/A変換の精度を上げるため外部クロックユニットを接続し、CDの音楽信号データをDSD5.6MHzにアップコンバート処理しています。また、真空管出力端子を介してアナログ信号を出力しています。

プリアンプ  : EVOLUTION PRE

パワーアンプ : EVOLUTION

KT88プッシュプル 出力40W

 

 

(1) 利根川 寛氏 FE168NSによるバックロードホーン

1番目の作品は利根川氏のバックロードホーンです。20年ほど前に設計・製作したキャビネットに、フォステクスの16cmフルレンジユニットを取り付けています。低域が若干強く出ているとのことですが、せっかく出てきた低音を吸い取るのはもったいないので、ホーン内部に吸音材は入れていないそうです。また、スピーカーユニットのコーンは軽くて薄いため、大きな口径のユニットは選択せず、かつユニットの背面の空気室を大きくとってコーンに負荷がかからないように工夫したそうです。

 

 バックロードホーンにありがちな低域のこもりがなく、とても爽やかな音色です。低域から高域へのつながりもよく、三宅由佳莉の歌う「ふるさと」では金管楽器の演奏をゆったり聴くことができました。また竹内まりやの「純愛ラプソディ」では、伸びのある軽やかな高音が印象的でした。

 

 

  

 

 

(2) 中島 孝嗣氏 マルチアンプ内蔵型3Way全指向性スピーカー

 2023年のMJフェスタに出品したスピーカーシステムで、3チャンネルのマルチアンプ内蔵型となっています。高音域は八角錐型のディフューザー内に設置されたFOSTEX FT17H、中音域はディフューザーの真下に上向きに設置されたFOSTEX FE126En、低音域はボディ内部に設置されたFOSTEXとコイズミ無線の共同開発品FK10Wが担当しています。チャンネルデバイダは6dB/Oct落ちの2個のローパスフィルタで構成されており、クロス周波数は150Hz7.6kHzに設定しています。ボディ内部はFE126Enの同軸バックロードホーンとFK10WによるASW部の二つの区画に分かれており、ASWの開口部はバックロードホーン内にあります。これにより、中低音と低音がボディ上部の開口部から一緒に放出されます。

 

 音がステージ後方や観客席の側面にも放出されるので、ステージの奥行や広がりがよく表現されています。口径10cmのウーファーを使用していますが、ビッグバンドの演奏では軽快で迫力十分な低音が堪能できました。また、高域とのつながりもよく、とても心地よい弦の響きを味わうことができました。

 

 

   

 

 

(3) 谷本 裕昭氏 げんこつポリカバッフル

2023年のMJフェスタに出品したスピーカーシステムで、厚さ2mmの半透明のアクリル製のバッフル板に球形の音響イコライザがついたテクニクスの20pユニットを取り付けたシステムです。一般的な後面開放型システムではバッフル版の振動を抑制しますが、谷本氏のシステムではバッフル版を積極的に振動させて低音域を出しています。68畳程度の部屋での音楽鑑賞用としての使用を想定しているそうです。

 

 アクリルに反射した光から、バッフル板全体が太鼓の皮のように振動していることがわかります。比較的低音も出ており、大きな音量でも歪感がありません。特にボーカルがやさしく表現されていました。薄く軽く設置できますので、限られたスペースで気軽に音楽を楽しむにはピッタリのスピーカーシステムだと思いました。

 

 

   

 

 

(4) 樫村 幸三氏 チョット贅沢な20cm 3Wayシステム

 ウーファにビクター製20cm、スコーカにパイオニア製12cm、ツィータにパイオニア製25mm微粒ダイアモンド振動板ドームスピーカーを用いた3Wayシステムです。キャビネットは内容積600ℓのバスレフで、ツィータにはウッドホーンが取り付けられています。ネットワークは800Hz5kHzにクロス周波数を持った12dB/Oct落ちです。

 

日本製スピーカーの優等生を集めた演歌専用のシステムです。八代亜紀の「舟唄」と大川栄策の「さざんかの宿」をのびのびと演奏しました。カラオケでも活躍しそうです。

 

 

 

 

 

(5) 米澤 清氏 フルレンジスピーカー 大阪音響ED-100 励磁型 口径10インチ +

ゴトウユニットSG-17s 16Ω

 1950年頃に発売された大阪音響のED-1001000Ωのフィールドコイルを持った励磁型ユニットで、米沢氏のシステムでは励磁電圧を77Vにして使用しています。ツイータはゴトウユニットのSG-17sです。キャビネット内にはイソフォン MM-10も取り付けてありますが、使用していないそうです。キャビネットは10年前に平面バッフルとして製作しましたが後面開放型に作り替え、フィリップス、テレフンケン、シーメンスと10インチユニットを載せ替えながら使ってきたそうです。今回は大阪音響のユニットをのせてみました。

 

 励磁型ユニットらしい歯切れがよく明瞭な音色で、女性ボーカルをやさしく表現します。中音域に音の重心があり、テナーサックスやベースが生々しく表現されていました。ちょっと古風な外観もいい味を出しており、ジャズ演奏をゆったり聴くのに最適のシステムだと思いました。

 

 

 

 

 

(6) 栗田 茂氏 FW168HR & T250D トールボーイ型スピーカーシステム

 キャビネットの内部に音道板を斜めに配置したことで、トールボーイ型スピーカーシステムで発生しやすい縦方向の定在波を抑制しています。2Wayネットワークのクロス周波数は1kHz 6dB/Oct落ちです。キャビネットもプロの仕上げのような上品なつくりです。パワーアンプが内蔵されているので、プリアンプのアナログ出力を接続して演奏しました。

 

 まず、口径16cmのウーファとは思えない、大型システムのような重低音にびっくりしました。低域から高域へのつながりもみごとで、ストラビンスキーの「火の鳥」ではスピード感のあるフル・オーケストラの演奏を堪能しました。

 

 

 

 

 

 

2部 協賛企業のデモンストレーション

 

 株式会社トライオードの山ア社長より、プレミアムシリーズのパワーアンプEVOLUTIONEVOLUTION 300、およびTRV-A150XRのデモンストレーションがありました。試聴に用いたスピーカーシステムも、同社が取り扱っているSPENDOR Classic 1/2です。英国のSPENDOR社は60年近くの歴史を持つスピーカーメーカーで、デザイン、設計、製作のすべてを英国で行っているそうです。

 

(1) EVOLUTION

KT88プッシュプルの出力40Wのパワーアンプです。真空管アンプですがリモコンによる操作が可能で、大きなディスプレイに入力モードとボリュームポジションが表示されます。(もちろん表示をOFFすることも可能です。)主にジャズを試聴しましたが、広帯域かつアンプの存在を感じさせない透明感の高い音色がすばらしいと感じました。特に臨場感の再現はみごとで、マイルス・デイヴィスのライブでは演奏直前の観客の緊張感といったところまで生々しく伝わってきました。第1部の作品発表では4名の作品でEVOLUTIONを使用しましたが、測定した音圧周波数特性と聴感がよく一致していたのも、EVOLUTIONが持つ透明感の高さが起因していると思います。

 

(2) EVOLUTION 300

米国ウェスタン・エレクトリック社製のWE300BA2級のシングルで用いた出力12Wのパワーアンプです。トライオード社の30周年記念モデルで、ご厚意により限定販売品を試聴させていただきました。こちらは主にクラシックを試聴しましたが、WE300B特有の緻密な中音域に特徴があると思いました。弦の艶と響きがすばらしく、特にクラシックのファンにはお勧めです。

 

(3) TRV-A150XR

 KT150A級のシングルで用いた出力18Wのパワーアンプです。残念ながら時間切れでエルガーの威風堂々の冒頭部分のみの試聴となりましたが、広帯域で透明感の高い音色です。駆動能力が高くスピーカーの能率を気にせず導入できるとのことなので、お気に入りのスピーカーシステムで気軽にいろいろなジャンルを楽しみたい音楽ファンにはぴったりのアンプだと思いました。

 

 

  

左手前からTRV-A150XR、外部クロックユニット、  左奥からEVOLUTION PREEVOLUTION、  SPENDOR Classic 1/2

CDプレーヤーのTRV-CD6SE              右側手前がEVOLUTION 300

 

 

 

3部 講演 「小澤式ステレオ再生の試聴」小澤 隆久先生

 

 講演で小澤先生がお話された内容と懇親会で質問に回答していただいた内容から、小澤式ステレオ再生について理解できた範囲を記述します。MJ無線と実験誌202323月号と202310月号にも解説がありますので、ぜひ参照してください。

 

ステレオ再生の基本原理として、左右に配置したスピーカーから出てくる音は下記の条件を満足する必要があります。

条件1:左右の音のレベルが等しいこと。

条件2:左右の音が出るタイミングが等しいこと。

条件3:左右の音は指向性を持たないこと。

 

一般的な2個のスピーカーを使ったステレオ装置では、条件1はアンプの調整で、条件2はスピーカーの設置方法とリスニングポイントをセンターに固定することで満足できます。しかし、高音域になるほどスピーカーの指向性が狭くなり条件3が満たされなくなるので、少しでもリスニングポイントがセンターから移動するとステレオ再生の条件が崩れて音質が劣化します。

 

 小澤式ステレオ再生では、スピーカーマトリクスを用いて4個のスピーカーをアンプに接続します。4個のスピーカーのうち、中央に配置した2個が指向性に起因する音質劣化を補正するスピーカーです。正しく補正を行うために、スピーカー前面のセンターに設定したリスニングポイントからの距離が誤差0.51.0mm以内で等しくなるように設置する必要があります。そのため、4個のスピーカーは上下の板で拘束されています。中央部の2個のスピーカーによって正しく補正が行われると、実際のリスニングポジションがセンターから移動してもステレオ再生の音質劣化を改善することができます。

 

 スピーカー前面のセンターから左にずれた位置で試聴したのですが、2個のスピーカーシステムを使った一般的なステレオ再生に比べ、小澤式ステレオ再生では右側のスピーカーから出ている音が自然な音量と音質で聞こえました。生演奏をこの位置で聴けば、確かにこういう感じに聞こえるはずだと納得できます。中央のスピーカーが指向性によって減衰した高域を補正した効果でしょうか、小澤式ステレオ再生のほうが音の分解能(滑らかさ)が増したようにも感じました。

 

 

   

試聴に用いた小澤式ステレオシステム         中央部のスピーカーの効果について解説される小澤先生

 

 

4部 関口先生を偲んで

 

当倶楽部の「ジャズ四方山話」でジャズの魅力について解説をしていただいていた関口英雄先生が、昨年12月に永眠されました。先生のご冥福をお祈りするため1分間の黙祷をささげ、関口先生が当倶楽部で最後に演奏したミシェル・ペトルチアーニの「フラミンゴ」を追悼曲として演奏しました。きっと空の上で先生も楽しんでいただけたのではないかと思います。

 

 

懇親会

 作品発表会の終了後、発表会場にテーブルを並べて懇親会が開催されました。今回は28名の参加者があり、すき焼きやおさしみをつつきながらオーディオの話題で盛り上がりました。

次回の第75回作品発表会は、2024518日(土)に久喜市総合文化会館小ホールで開催される予定です。またオーディオでおおいに盛り上がりましょう。

 

 

 

 

 

 

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