彩球オーディオ俱楽部

72回作品発表会

 

 

 

 

2023520()に、埼玉県久喜市にある久喜市総合文化会館小ホールにて、彩球オーディオ俱楽部の第72回作品発表会が開催されました。心配された前日の雨も朝にはあがり、またコロナ禍もようやく収束の兆しをみせはじめたとあって、会場には150名を越えるオーディオファンが集まりました。

 

今回は第1部に会員6名の作品発表、第2部に協賛企業であるゼネラルトランス販売株式会社様の製品デモンストレーション、第3部に「真空管アンプで聴くストリーミングオーディオ」というテーマで篠義治氏の講演がありました。

 

 

会場の久喜市総合文化会館

 

 

当倶楽部の樫村幸三会長の開会の挨拶に続き、MJ無線と実験誌ライターの岩村保雄先生から「このような作品発表会に積極的に参加して、切磋琢磨しながら技術を磨いてください。」というメッセージをいただきました。

 

   

 

 

第1部 作品発表

 

いつもの発表会と同様に25分の持ち時間の中で課題曲を2分ほど演奏し、出品作品の解説や自宅のリスニング環境などについて話をしながら、出品者が選んだ曲を演奏するという形式で進められました。課題曲はクリスタル・ゲイルの「夢のひととき」(MJ無線と実験 MJCD-1005 オーディオ・テクニカルCD No.6)です。

 

 

(1) 浜館 俊一氏 6RA8 差動プッシュプルアンプ(7W

25年くらい前に作成したアンプを差動プッシュプルに設計変更したそうです。初段の12AX7による差動増幅回路で増幅と位相反転を行い、次段の5814Aのカソードホロワと直結で接続しています。出力段のNEC6RA8は、CR結合でドライブされています。出力トランスには負荷インピーダンス8kΩのサンスイ製SW15-8が使われており、出力トランスの2次側から6RA8のカソードにNFBがかけられています。出力段と初段・ドライブ段のB電源は、それぞれ別の電源トランスを用いて供給されています。整流にはダイオードを用いており、初段とドライブ段のB電源は半導体を用いた定電圧回路で平滑されています。1W出力時の歪率は0.1%、ダンピングファクタは3.5となっています。

 

2A3プッシュプルのような広帯域で爽やかな音色です。ボーカルにも艶とハリがあり、高橋真理子の歌う「Moon Tree」や平井堅の「世界で一番君が好き?」のエネルギー感がとても印象的でした。休憩時間に上部カバーを外して内部を撮影させていただきました。

 

 

 

 

 

(2) 照内 篤氏 GM-70(メタルプレート) シングルアンプ(10W

柳沢正史先生がMJ無線と実験誌に発表された813トランスドライブシングルアンプの回路を参考にして、出力管をGM70に替えて設計・製作したそうです。重量は39kgもあり、かなりのヘビー級アンプです。初段管は両ユニットを並列接続した6SN7を用いており、次段の三極管接続した7C5でタンゴ製の段間トランスNC-14を介して、GM-70をトランスドライブしています。出力トランスはタムラ製のF-2013、負荷は10kΩです。電源トランスもタムラ製のPC-3011を使っており、ほかにヒータートランスが2個用いられています。GM-70は直流点火です。GM-70B電源はダイオードで整流され、タンゴ製のチョークコイルLC10-200D100μFのコンデンサで平滑しています。

 

GM-70のトリタンフィラメントが美しく輝き、とても魅力的なアンプです。無帰還アンプ特有の力強い中音域が特徴で、「Blue Train」では当時31歳のジョン・コルトレーンのテナーサックスを躍動的に、また「Gotta Travel on」ではレイ・ブライアントのピアノを軽快に表現していました。

 

 

 

 

(3) 飯田 一峰氏 4E27T)シングルアンプ(15W

ビーム送信管4E27を三極管接続にし、B電源電圧として712Vを印加したA級増幅となっています。初段管にも小型送信管841を用いており、B電源電圧として537Vを印加しています。次段のドライバ管は6BX7-GTを用いており、カソードホロワで4E27を直結して駆動しています。初段とドライブ段の電源トランスはゼネラルトランス製のPMC-170Mを使って5AR4で整流していますが、4E27B電源とヒーターは別筐体の電源装置から供給しています。

 

 4E27のみならず初段管の841もトリタンフィラメントなので、稼働中のアンプ全体が煌々と輝きます。送信管らしい広帯域でのびのびとした音が特徴で、ビル・エバンス・トリオの「My Foolish Heart」ではピアノの響きにうっとりとしてしまいました。また、富山オーディオクラブの10周年記念大会で演奏された花岡詠二とスヰングショッツによる「鈴懸の径」のライブ録音も、まさに実際にステージの上で演奏されているかのように感じました。

 

 

 

 

(4) 上野 浩資先生 6BQ5 サークロトロンプッシュプルアンプ(15W

MJ無線と実験誌のライターとしておなじみの上野浩資先生に、MJ202212月号と20231月号に連載されたサークロトロンプッシュプルアンプを出品していただきました。サークロトロンは並列合成と呼ばれるプッシュプルの方式で、通常の直列プッシュプルとの違いを解析して設計・製作されたそうです。

サークロトンはフローティング電源と出力管をブリッジのように組んで負荷を駆動します。負荷となる出力トランスのセンタータップは出力管のバイアスを確定させるため接地されていますが、出力管を流れる電流はフローティング電源から供給されているのでセンタータップを通りません。出力管のプッシュプル動作によって合成された交流電流は出力トランスの1次側を貫通するように流れるため、サークロトロンにはスイッチング歪が発生しないという特長があります。ただし、1チャンネルあたり2系統のフローティング電源が必要となりますが、上野先生は4系統の260V巻線を持つゼネラルトランス製のPMC-NU013という電源トランスを使い、この課題をクリアしています。初段とドライブ段はCR結合された差動増幅回路となっており、位相反転は入力トランスで行っています。ちなみに、初段の6922とドライブ段の5687は中増幅率双三極管ですが、6922はユニット間にシールドを持っています。

 

 ギターやバイオリンなど、弦楽器の響きの美しさに驚嘆してしまいました。弦楽器の持つ力強さと繊細さが、とてもバランスよく再現されています。女性ボーカルも素敵です。「Ntyilo Ntyilo」を歌うオーナの上品な歌声も忘れることができません。

 

 

 

 

(5) 磯貝 朝之氏 TDA7498 デジタルアンプ(30W

D級のデジタルアンプは当倶楽部の新年発表会に出品されるスピーカーシステムの駆動によく使われますが、アンプの出品作品として登場したのは初めてではないかと思います。

放熱器がついたパワーICと主要部品がアセンブリされたアンプ基板が、トランス、ダイオード、大容量コンデンサなどで構成された電源回路といっしょに筐体内に格納されています。電源回路とアンプ基板は帯状の銅板と太い電線を使って結ばれており、瞬発的な大電流の供給にも対応しています。D級アンプは電力効率が80%程度あるので、冷却ファン等は必要ありません。ステレオのアンプ基板が1枚数千円で入手でき、しかも高品質な音が楽しめるので、「電子工作の感覚でマルチアンプシステムなどを構築するのに向いている。」とのことでした。

 

 広帯域でパワーも十分あり、クラシックの演奏も十分楽しめます。ダンピングファクタも高いので、チャイコフスキーの「序曲1812年」では大砲の炸裂する音が歯切れよく伝わってきます。さすがに、これだけのパフォーマンスのアンプを、真空管を使って1万円以下の費用で製作するのは不可能だと思いました。

 

 

 

 

 

(6) 橋本 昌幸先生 旧ソ連製6C33C-B SEPP <OTLDCアンプ>(40W

MJ無線と実験誌のライターとして活躍されている橋本昌幸先生にOTLDCアンプを出品していただきました。このアンプは、OTLアンプを造り始めてから7〜8年をかけて出力10WACアンプを40Wへと改造し、さらにDCアンプへと発展させたそうです。MJ無線と実験誌20205月号に、ACアンプからDCアンプへの回路変更に関する解説が掲載されています。

初段は12AT7SRPPとし、次段の位相反転回路に直結で信号を渡しています。この位相反転回路は二つのSRPPを定電流回路で結んだ差動増幅回路となっており、出力管6C33C-Bで構成されたプレートホロワSEPPを直結で駆動しています。また、出力から初段管のカソードにメジャーループ帰還をかけることにより、低出力インピーダンス化も図られています。半導体によるOTLプロテクタ回路も備えられており、あらかじめ設定された範囲を超えて出力電圧がドリフトすると、リレー回路が作動して出力を遮断するようになっています。

 

 アンプの存在を感じさせない、広帯域で自然な音です。イーグルスのライブ演奏による「ホテルカリフォルニア」ではバスドラムが40Hzとのことでしたが、みごとに再現されておりライブ会場の雰囲気が違和感なく伝わってきました。特にすごいと感じたのがDCアンプの持つ瞬発力で、打楽器やマリンバなどがリアルに表現されていました。もちろん「カンターデドミノ」で演奏されたパイプオルガンの重低音も、「すばらしい」の一言です。

今回はパワーアンプのみの出品でしたが、MCヘッドアンプから出力段までオール真空管によるトランスレスシステムも準備できるとのことでした。今後の発表が楽しみです。

 

 

 

 

2部 協賛企業のデモンストレーション

 第2部では、ゼネラルトランス販売株式会社の木村成之社長より製品のデモンストレーションをしていただきました。ご存じの方も多いと思いますが、同社の店舗は東京都港区の秋葉原にあるラジオデパート地下1Fにあり、開業当初は主にトランスの販売を行っていました。現在はシャーシや電子部品など取り扱い商品も増え、自作オーディオファンにとって力強い味方となっています。今回は「6BM8 UL接続シングルアンプ」のキットと、出力トランスKMF-8WS-5KHの商品説明欄に添付されている回路図(ネット上でも公開)に従って製作した「6V6三結無帰還シングルアンプ」をデモンストレーションしていただきました。

 

 どちらのアンプも軽量で持ち運びが楽な小型アンプですが、音のクオリティの高さにびっくりしました。特に6BM8に関しては、こんな素晴らしい能力が秘められていたのかと改めて気づかされました。6BM8の五極管部とビーム四極管6V6の個性の違いも、ふたつのアンプを聴き比べると明確にわかります。

 木村社長にお話を伺ったのですが、「自作アンプの入門に6V6三結無帰還シングルアンプを製作し、シャーシやトランスを流用しながら出力管を6L6EL34などに替えていくのも楽しいですよ。」とのことでした。

 

 

  

6BM8 UL接続シングルアンプ              6V6三結無帰還シングルアンプ

 

 

第3部の講演に先立ち、MJ無線と実験誌のライターとして活躍されている柳沢正史先生から、24年間続いている当倶楽部の活動について熱いエールを送っていただきました。また、716日(日)に秋葉原で開催される「MJオーディオフェスティバル」と、918日(祝)に東京都西東京市のコール田無で開催される柳沢先生主催の「真空管アンプで音楽を聴く会」の紹介もありました。

 

 

 

3部 講演 「真空管アンプで聴くストリーミングオーディオ」篠義治氏

インターネットを使ったストリーミングオーディオ(音楽配信サービスを利用した音楽再生)は、サービスが始まった当初は通信速度の制限によりデータに圧縮がかけられ、音質はCDには及びませんでした。しかし、最近では4Gや5Gといった高速通信が可能となり、アマゾンミュージックやアップルミュージックなどの音楽配信サービスからCDと同等、またはそれ以上の音質で1億曲以上の音源が利用できるようになりました。また、何回利用しても料金は月額千円程度(年間に換算してもCD4枚分程度)の定額となっており、とても利用しやすく設定されています。

このようなストリーミングオーディオを真空管アンプで楽しむにはどうすればよいか、実際に利用しているユーザーの立場で篠氏から講演をしていただきました。

 

 

(1) ストリーミングオーディオとCDの音質の違い

外部デジタル入力とCDドライブ部を切り替えることができるCDプレーヤーを用いて、ストリーミングオーディオとCDで同じ原音の楽曲のイントロ部分を30秒ほど演奏し、音質の差を比較試聴しました。また、この比較試聴を行ったときのパソコンの操作状況をプロジェクタで投影し、DACが信号を受け取れるようにデジタル信号の仕様を設定する操作と、音楽配信サービスのメニューから聴きたい楽曲を検索する操作を実演しました。

 

 

ストリーミングオーディオとCDの比較試聴を行ったシステム

 

 

 CDプレーヤーのデジタル入力端子のUSBドライバのバージョンが古くUSBを使ってパソコンに接続できなかったので、音楽データをデジタル・デジタル・コンバータで光信号に変換してCDプレーヤーに入力しています。このような変換処理が入っても、ストリーミングオーディオの音質とCDの音質には大きな違いはありませんでした。またストリーミングオーディオでは、パソコンで楽曲を選択してから演奏が始まるまでの待ち時間もなく、演奏中に音が途切れるなどの現象も発生しませんでした。

 

個人的な感想ですが、ストリーミングオーディオのほうが高音域の伸びが良く、CDよりも心地よい音色だと感じました。講演ではクラシック音楽を使った比較試聴は行いませんでしたが、十分満足できる音質で聴けると思います。聴き放題なので、指揮者や楽団を変えながら演奏のサーフィンも楽しめます。CDを保管するスペースに困っている方は、どうしても残しておきたいCDだけ手元に置いて、普段はストリーミングオーディオを利用するのもいいかもしれません。ただし、ストリーミングオーディオとLPレコードでは音の質感が全く異なるので、LPレコードが聴ける環境は残しておきたいと思いました。

 

 

(2) DACによる音質の違い

 ストリーミングオーディオでは、デジタル信号をアナログ信号に変換するDACICチップによって音質が大きく変わります。講演では4万円程度の価格で販売されている中国製のDACを3台準備し、DACによる音質の違いを比較試聴する予定でした。用意したDACに使われているICチップはバーブラウンやローム、旭化成などのもので、高級オーディオ機器に搭載されているチップと同じものです。残念ながら今回の講演ではパソコンのDAC設定操作に手間取り、時間切れとなってしまいました。DACによる音質の違いの聴き比べは、次回以降に仕切り直して実施することになりました。

 

 

  

 

 

懇親会

 作品発表会の終了後、会場を久喜駅近くの「徳樹庵」に移し、懇親会が開催されました。今回は25名の参加者があり、すき焼きを囲みながらオーディオの話題で盛り上がりました。次回の第73回作品発表会は107()の開催となります。会場は久喜市総合文化会館ですので、またオーディオで大いに盛り上がりましょう。

 

 

 

 

 

 

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