ジャズの聴き方楽しみ方Y

「LPレコード鑑賞会」試聴会レポート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本年度の「ジャズの聴き方楽しみ方Y」講座は、埼玉県県民活動総合センターにおいて9/1410/510/2611/16の各日曜日に計4回実施されました。最終日の1116日には同センター内の小ホールにおいて、「LPレコード鑑賞会〜魅惑のジャズ・サウンド(5)」と銘打ってLPレコード鑑賞会が開催されました。このLPレコード鑑賞会について、彩球オーディオ倶楽部がハード面で全面的に協賛と支援を致しましたのでご報告申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

    

「ジャズの聴き方楽しみ方Y」広報紙     「魅惑のジャズサウンド(5)」広報紙

 

 

 

 

 

 

 

 

このジャズ講座の特色は何といっても、地元深谷市在住の関口英雄先生の若々しく(1937年生まれ)、情熱溢れる講義内容ではないかと思います。先生は小学生の時以来、60有余年にわたってジャズを聴き続けジャズを心の友として歩んでこられた方です。

 

講義に使用されるテキストは、曲目と演奏者の紹介が諸々のエピソードを交え懇切丁寧に分かり易く掲載されており、またレコードのジャケットも綺麗に印刷されており、ジャズのなんたるかを楽しく学ぶことが出来るものです。後々、貴重なジャズ資料となるものだと思います。このテキストを見られた新宿のレコードショップ「Hals」の池田晴彦店主は、「この方のジャズに対する造詣に感服です。素晴らしい。また、見ていて本当に楽しいテキストですね」とべた褒めでした。

 

 本講座の1回目から3回目の講義の中から、印象に残っている先生の名講義を2、3挙げてみます。

 

 

 

 

 

 

 

 

   

会場風景(正面)

 

 

 

 

 

   

関口先生の講義風景

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)「ジーン・ディノヴィ」の「ゴールデン・イヤリング」について

 

 

 

今回の講座の「Part-1」では、「ジャズ化されたスクリーン・ミュージック」が取り上げられました。その中で大女優マリーネ・ディートリッヒ主演の映画「ゴールデン・イヤリング」の主題歌の講義が印象的でした。ビクター・ヤングが作曲したこの曲はサラサーテの「チゴイネルワイゼン」をモチーフにした哀愁を帯びたメロディが好評で、最もヒットしたのはペギー・リーのボーカルでした。しかしこの曲の「ジャズ化」で注目すべきは「レイ・ブライアント・トリオ」のこの曲(1957年録音)で、先生は「芯が太くそれでいてロマンチックで哀愁が込められていて、彼の一世一代の名演になっている、ジャズの基本であるフォービートにのせて、この曲本来の魅力をストレートに引き出している」と分析され、「ゴールデン・イヤリングならレイ・ブライアント」との評価が定着し続けたと言及されたのでした。

 

しかし、45年振りに出現した対抗馬が「ジーン・ディノヴィ」でした。2002年発売のアルバム「ゴールデン・イヤリング」の中に収められた控えめで趣味の良いこの曲の演奏は、レイ・ブライアントを凌ぐとも劣らぬものでした。同アルバムの発売元の「マシュマロ・レコード」社主の上不さんは、ジーン・ディノヴィについて「彼は19285月ニューヨーク生まれ。若々しく、ナイーブなプレイは衰えを知らない。ディノヴィは今、正しく“旬”のピアニストである。15才でジャズの巨人チャーリー・パーカーと共演するという早熟ぶりを発揮し、その後、レスター・ヤング、ベニー・グッドマン、ベン・ウェブスター、ファッツ・ナバロ、等との共演という貴重な経験が、現在成熟しきったディノヴィのピアノスタイルに大きく寄与している。」と熱を込めてお書きになっています。

 

なお、今年の68日、当「県活総合センター、小ホール」において「ジーン・ディノヴィ ピアノコンサート」が開催され、彼の若々しく優しく深いピアノプレイで「ゴールデン・イヤリング」「赤とんぼ」等の曲を満喫させて頂いたことを附記しておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

        

ジーン・ディノヴィ コンサート 広報紙

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)ブルーノート4199「ザ・ラムプローラー」について

 

 

 

講座の「Part-2」では先生の名講義の定番「レコードジャケットの話」が取り上げられました。ブルーノートの「アート・ディレクター」(ジャケット、パッケージ等のデザイン担当)の「リード・マイルス」が手掛けた「タイポ・グラフィ」手法(文字を使ったデザインあるいはデザインされた文字)によるジャケットが何枚か紹介されましたが、この「ザ・ラムプローラー」というLPアルバムは「一度で二度美味しい」アルバムですね。

 

その1はこのアルバムのジャケットが文字のデフォルメ(変形・歪曲)をやった好例で、「THE RUMPROLLER LEE MORGANという文字が部分的に引き延ばしたうえでひねりを加えたように描かれており、躍動感が出るのは当然として立体感さえ感じさせる。」と洞察され、その2はこのアルバムの2曲目に入っている「月の沙漠」が日本のファンに大うけである点です。おそらく「リー・モーガン」が「ジャズ・メッセンジャーズ」の一員として来日した折にどこかで耳にしたのかも知れませんね。その演奏は威勢の良いハード・バップで、元歌のもつ哀愁の面影は薄いのですが、一聴の価値有りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

     

「ザ・ラムプローラー」ジャケット

 

 

 

 

 

 

 

 

 (3)「ネコジャケには傑作が多い」ということについて

 

 

 

講座の「Part-3」では、「レコードジャケットの話(番外編)」で「ネコジャケには傑作が多いって、本当だろうか?」のテーマの記述は、非常に、楽しく面白いものでした。

 

まず、Epic3105の「ホッジ・ポッジ(Hodge Podge)」(19381939)が取り上げられましたが、ネコをあしらったユーモラスな漫画のジャケットの可愛さは格別です。録音は相当古いものですが、SPからの復刻の割にはスクラッチノイズもほとんどなく音質もまずまずで、「ジョニー・ホッジス」の演奏スタイルはすでにこの時期に確立しており、その美しい音色の中に繊細さと強靱な芯の強さが同居していることが窺い知ることの出来る傑作です。この他、エピックのネコシリーズは全部で6枚あるのですが、「どのジャケットもユーモアとセンスの点で人気抜群である」と先生も太鼓判を押しておられます。前述の池田晴彦店主も「このエピックのネコシリーズは大人気で、入荷するとすぐに売れてしまいます」とのことでした。(別添ネコシリーズのジャケット参照)

 

また、先生はトミー・フラナガンの「ザ・キャッツ(New Jazz8217)」やジャッキー・マクリーン・クインテッドの「ネコのマクリーン(Ad Lib盤)」等の「ネコジャケ」盤をあげられて、その演奏内容も素晴らしい旨述べておられます。

私はこれにジミー・スミスの「The Cat」もその候補にあがるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

     

「HODGE PODGE」ジャケット

 

 

 

 

 

 

 

エピック盤「ネコシリーズ」のジャケット

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、当日の「LPレコード鑑賞会」のテーマは「ブルーノート以外のレーベルに残されたルディ・ヴァン・ゲルダー・サウンド」でした。「Rudy Van Gelder」といえばレコーディング・エンジニアとして、プロデューサー兼社長 創始者の「アルフレッド・ライオン Alfred Lion」と組んで、多数の名盤を発表した「ブルーノート」レーベルが有名ですが、実は本命のブルーノート以外にも「プレスティッジ」、「サヴォイ」、「アトランティック」、「ヴァーブ」、「インパルス」などのレーベルにもルディ・ヴァン・ゲルダーが手掛けたアルバムが多数残されていて、今回のテーマの目的は「これらのレーベルに残されたヴァン・ゲルダー・サウンドを時系列的に聴くことにより、真のヴァン・ゲルダー・サウンドとは何かという命題に対する答えが浮かんでくるかもしれない」との狙いでした。

 

 当日、皆様に聴いて頂いたレコード(レコード名と曲名)は

 (1)ジャッキー・マクリーン・クインテッド(Ad Lib 6601

    「ラヴァー・マン」

 (2)コルトレーン(Prestige

    「コートにスミレを」

 (3)ウィンチェスター・スペシャル(New Jazz

    「ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン」

 (4)カウント・ベイシー・アンド・カンザスシティ・セブン(Impulse

    「シュー・シャイン・ボーイ」、「アイ・ウオント・ア・リトル・ガール」

 (5)ジャズ・ン・サンバ(Impulse

    「アイ・ラブ・ユー」

 (6)ストライド・ライト(Verve

    「ファンタスティック・ザッツ・ユー」、「ティッピン・イン」

 (7)ジム・ホール/アランフェス協奏曲(CTI

    「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」  

(8)ヤング・ジャンゴ(MPS

    「ジャンゴロジー」、「スイート・コーラス」、「ティアーズ」 

(9)ライブ・アット・30th・ストリート(CBS

 「マイ・メランコリー・ベイビー」、「イン・ア・センティメンタル・ムード」、「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニモア」、「ネヴァー・ネヴァー・ランド」

16曲でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の2曲はモノラールレコードでしたが、今回はじめて、GEのバリレラカートリッジを使用して、そして専用のGEフォノイコを通して聴きましたが、結果は大正解で、ジャッキー・マクリーンのアルトサックスの「泣き節」、コルトレーンのテナーサックスの「スローバラード」ともにその中高音主体の見事な音色が心地よくホール全体に響き渡りました。

 

 3曲目以降のステレオレコードは定番のオルトフォンカートリッジ「SPU-AE」を使用して、同じくオルトフォンのMCステップアップトランス「0.32M」を通しての再生でしたが、「スピーカー ALTEC604-8G」、「メインアンプ811A」との相性抜群で、正に、「これがジャズだ」、といわんばかりの素晴らしい再生音を聴かせてくれました。

 

 

 

 

 

 

     

バリレラ用フォノイコライザー UPX−003A

 

 

 

 

 

 

 

 「ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン」のヴァイブ奏者「レム・ウインチェスター」の演奏は彼の持ち味である軽快さとマレット捌きの見事さと、ベニー・ゴルソンのゴツゴツしたテナーサックスを聴かせてくれました。尚、彼はアメリカ東海岸のデラウエア州の州都「ウィルミントン」の出身で(名トランペッター「クリフォード・ブラウン」も同じウィルミントンの出身)、警察官を職業として演奏活動を続け、警官の制服のまま演奏に飛び入りすることもあって、これも人気の的だったそうです。しかし、クリフォード・ブラウンは1956年に交通事故死、レム・ウィンチェスター1961年に「ロシアン・ルーレット」という危険極まりないゲームによって自ら命を絶ってしまい、ウィルミントン出身の有望なジャズ・ミュージシャンが二人とも若くして世を去ってしまったことは、ジャズ界にとって大きな損失となりました。

 

 

 

 

 

 

 「アイ・ウオント・ア・リトル・ガール」では、カウント・ベイシー・バンドのピックアップ・メンバーのよる演奏ですが、ベイシーのオルガン、サド・ジョーンズのミュートトランペット、フランク・フォスターのテナーサックスと、功なり名を遂げたミュージシャンの「肩の力が抜け、和やかで軽快な演奏」を聴かせてくれました。また、このアルバムは、ニュージャージー州イングルウッド・クリフスの新スタジオで録音されたものですが、ブルーノート時代のデッドな音から脱却して、広い空間で鳴り響く音へと変化し、進化した音作りとなっています。

 「ファンタスチック・ザッツ・ユー」は1966年録音のヴァーブ盤からの一曲で、ミディアムスローで演奏されるロマンティックナンバーです。ジョニー・ホッジスとベテラン・ピアニスト、アール・ハインズとギターのケニー・バレルとの共演ですが、3人ともお互いの演奏を尊重しあって、実に楽しくしなやかで肩の凝らない演奏に徹しています。また、ヴァン・ゲルダーはこのアルバムで、ホッジスをモダンでシャープなサウンドによって捉えていて、この点でもファンにとっては、見逃すことが出来ないレコードとなっています。

 

 

 

 

 

 

 「マイ・メランコリー・ベイビー」は先生の講座でよく登場するキャロル・スローンの一曲です。このレコードは、CBSがニューヨークのマンハッタン30丁目にあった教会をスタジオに改造した会場に、聴衆を招き入れて録音した、いわゆる「スタジオ・ライブ盤」ですが、これは、キャロル・スローンが聴衆のざわめきや拍手が聞こえるクラブの雰囲気で歌いたいと願っていた彼女の強い要望で実現したもので、しかも、この日のキャロル・スローンは殆どの曲がワンテイクでOKが出るほど絶好調でした。このアルバムはキャロル・スローンの決定盤といわれ、彼女の魅力的な歌唱力を十二分に楽しめるアルバムとなっています。先生が4曲選曲された曲の中で、私はこの「マイ・メランコリー・ベイビー」のしっとりとした名唱ぶりに酔いしれました。

 

 

 

 

 

 

今回、用意した再生装置は

   レコード・プレーヤー:YAMAHA GT750 (吉田さん)

   カートリッジ(モノ):GEバリレラRPXゴールデントレジャー(筆者)

              GEフォノイコ UPX-003A(筆者)

              予備機のフォノイコ(磯貝さん自作)

   カートリッジ(ステレオ):Ortofon SPU-AE(吉田さん)

              MCトランス:Ortofon 0.32M(吉田さん)

   プリアンプ:LUXMAN CL35U(五十嵐さん)

   メインアンプ:811Aシングルアンプ(五十嵐さん自作)

              予備機 829Bプッシュプルアンプ(横山さん自作)

   スピーカー:ALTEC 604-8G38cm 2way同軸型」(安藤さん)

 エンクロージャーは安藤さんの自作です。

 

 

 

 

 

 

811Aシングルアンプ(五十嵐さん)

 

 

 

       

829Bプッシュプルアンプ(横山さん)

 

 

 

 

 

 

 

 

彩球オーディオ倶楽部の会員5名(吉田、安藤、五十嵐、横山、石風)は当日9:00に会場裏手の駐車場に集合、それぞれ機材を会場小ホールに運搬の上、セッティングを開始しました。アンプ、プレーヤーの配線作業が終わりかけた頃、安藤さん運搬のスピーカーが到着、皆で小ホールまで運搬のうえ、スピーカーの位置決め作業を慎重に実施です。811Aアンプに燈を入れると、タングステンフィラメントがアンプの周りを明るく照らしました。まず、オルトフォンカートリッジ「SPU-AE」をアームに装着して、ステレオ盤の音出し開始です。

 

 次に、今回はじめて使用するモノカートリッジ「GEバリレラ」の音出しですが、少し「ハム」が出ます。バリレラ用専用のフォノイコ、UPX-003Aの位置決め、およびこのフォノイコ用の115Vのセットアップトランスの位置決めによりハム対策を実施。モノレコード「DUET/DORIS DAY AND ANDRE PREVIN」の一曲目の「REMIND ME」を何回もかけて調整作業を実施致しました。そして、ボリューム調整作業を皆で会場の前後左右で試聴して最終調整です。過去の経験もあって、約1時間半後にはほぼセッティングが終了致しました。

 

関口先生も13:00に会場入りされ、13:30の開演前にもう一度入念に最終調整を実施し、写真担当の五十嵐さん、プレーヤー担当の吉田さんもスタンバイOKとなり、予定どおり、事務局の奥川様の司会進行により、13:30に順調にコンサートを開始する事が出来ました。

 

 

 

 

 

 

 今回のレコードコンサートには約200名の来場者があり、女性の来場者および御夫婦の方の来場者も多く、大盛況でした。何人かの方に「今日のコンサートはいかがですか」と声をお掛け致しましたところ、「今回のコンサートの音は今までのコンサートの音にくらべて一番良かった」、「高域から低域まで非常に聴きやすい音ですね。レコードの音の素晴らしさを再認識致しました」等、大方の方から、高評価を頂きました。県活総合センターの当コンサートの事務局、奥川様に「アンケート」の総評をお聴きしましたとろ、「非常に好印象で、その音の素晴らしさに感動した」と意見が大半でしたとのことでした。地域活動の一端を担うことが出来て、しみじみと良かったなと感じた次第です。

 

                                  (石風嘉彦記)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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