「ジャズの聴き方楽しみ方X」

「LPレコード鑑賞会」試聴会レポート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 埼玉県県民活動総合センターにおいて、本年度の「ジャズの聴き方楽しみ方X」講座(4/74/144/215/12の各日曜日4回)が開催されました。また最終日の512日には、同センター内の小ホールにおいて、「魅惑のジャズ・サウンド(4)」と銘打ってLPレコード鑑賞会も開催されました。

 

 このLPレコード鑑賞会について、彩球オーディオ倶楽部がハード面で全面的に協賛、支援を致しましたのでご報告申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

小ホールの会場風景(写真1

 

 

 

 

 

 

 

 このジャズ講座の特色は何といっても、地元深谷市在住の関口英雄先生の若々しく、情熱溢れる講義内容ではないかと思います。関口先生は小学3年生の時に進駐軍放送でジャズに開眼され、以来60有余年にわたってジャズを聴き続けジャズを心の友として歩んでこられた名伯楽です。

 

講義に使用されるテキストは日本語変換ソフトを十二分に駆使されて、全て先生ご自分で編集される由ですが、是非載せたいLPのジャケットを探すのに思わぬ手間と時間が掛たりとか、計り知れないご苦労をされておられるようです。

 

また、テキストの製本については、事務局の奥川様がご自身で、定時後コピー機を自由に使用できる時間帯に、慎重にかつ綺麗に仕上がるように、製作されておられるとのことです。製本の仕上がり具合は、大変読み易く素晴らしいものです。

 

このテキストは曲目、演奏者の紹介が諸々のエピソードを交え懇切丁寧に分かり易く掲載されており、レコードのジャケットも綺麗に(一部はカラーで)印刷されており、ジャズのなんたるかを、楽しく学ぶことが出来るものです。又、後々、貴重なジャズ資料となるものだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

    

ジャズ講座とLPレコード鑑賞会の広報紙(写真2,3

 

 

 

 

 

 

 

 

 本講座の1回目から3回目の講義の中から、印象に残っている先生の名講義を2、3挙げてみますと、

 

 

 

1)「その後のキャロル・スローン」について

 

 昨年の本講座の最終日のLPコンサートで彼女の事実上のファーストアルバムで1959年にレコーディングされた「ハッシャ・バイ」から3曲紹介されたのですが、彼女の初々しい美声が大好評で、先生に寄せられた受講者の「ご感想」のなかに、「これを機会にこのアルバムのCDを購入した」という方が複数おられたとのことでした。本年度の講座でその後の彼女のアルバム製作、および彼女の人生についての紹介がありました。

 

 「ハッシャ・バイ」アルバムの製作以降は、大手CBSから、1961年と1962年に各LP1枚、シングル盤が1965年までに3枚、発売されただけで、その後レコーディングが途絶えてしまったのですが、その理由を先生は「CBSの製作方針に彼女が従わず、レコーディングに際して自分の意思を貫き通したために、生意気な新人として敬遠され干されてしまったからだと伝えられているが、どうやらそれが真相らしい」と分析されています。その後、彼女はノースカロライナ州のローリーで、法律事務所の秘書の仕事で生計をたてるかたわら、地元の二つのクラブ(「フロッグ・アンド・ナイトガウン」と「カフェ・デジャヴー」)に出演して、捲土重来を期し、そしてその移動には一般人と同じように地下鉄を利用する等、地道に努力を重ねて来たのでした。

 

そして、クラブの常連客のリクエストもあって、ついに8年後の1973年に「サブウェイ・トークンズ」というLPを自主製作して再評価のきっかけを作ったのでした。「このあたり、不遇にもめげないキャロル・スローンの意欲というか気力というか、とにかく常人のおよぶところではない。この一連の経緯は、人生のチャンスなどというものは何処に転がっているかわからないからとにかくやってみることだとキャロル・スローンが我々に語りかけているようにも感じられる」と述べておられます。

 

因みに、「トークン」とは地下鉄に乗るための金属製のコインのことで、オリジナルLPと、その後発売されたCDのデザインのもとになっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャロル・スローン サブウェイ・トークンズのオリジナルLPのジャケット(写真4

 

 

 

 

 

 

 

(2)「ズート・シムズ」の聴き方について

 

  ロンドンの名門ジャズ・クラブ「ロニー・スコット・クラブ」でのライブの模様が収録されている「クッキン」というアルバムと、パリでレコーディングされた「デュクレテ・トムソンのズート」の2枚のLPを引用されて、先生は「ズートはファンが考えているよりも繊細で頭の回転が速く、しかもその回転についていけるだけの演奏技術をものにしていたのではないか。そして、そこまで聴き取ってやるのが真のズート・ファンではないか」と云っておられます。どちらかというと、私は「ズート」や「ダウン・ホーム」が好きな豪快派でしたが、ズートの「繊細派」としての聴き方を勉強させて頂き、非常参考になりました。

 

また、ズートが無二の酒豪でステージに上がる前に、一杯引っ掛けるのが習慣になっていたが、自分のソロの時間になると途端にしゃきっと見事な演奏をするのをファンが見て、「そんなに酔っているのにどうしてきちんと演奏できるのですか」と質問すると「それはね、普段酔っ払って練習してるからさ」と答えたとか、病院で死の床にあっても回診の先生に「やあ先生、今日は顔色がいいじゃないですか」と先手をうって話しかけた、いうエピソード等もズートの人柄が出ていて面白いなと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

(3)「ビリー・ホリデイ」の「誰も奪えぬこの想い」について

 

 

 

 

 1937630日ニューヨークのサヴォイ・ボール・ルームでの「カウント・ベイシー楽団」とのライブで彼女がこの曲を歌った時の見事な熱唱ぶりを、先生は「ジャズは瞬間芸である。バンドの熱気が乗り移ったのか、会場の雰囲気がそうさせたのか、とにかくビリー・ホリデイは気分が高揚して独特のうねるような、そしてヒネリの利いた独特のフェイクをやってのけた」と描写され、「録音の年代が古くて音質の良くないものであっても内容さえよければ聴いておくにしくはない。聴き方に幅と奥行きが出る。音の良し悪しを超越した幅広い聴き方をしているジャズ愛好家は多い。できればそういう聴き方を身につけていただきたい」と、とかく音質重視に陥りやすいジャズ・ファンの聴き方に一石を投じておられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

関口先生の講演風景(写真5

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュマロレコード上木さんのご挨拶(写真6

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、当日の「LPレコード鑑賞会」の冒頭に、先生は、用意された白板に「LOS、ロイ・デュナン NY、ルディ・ヴァン・ゲルダー」と板書され、前半で取り上げるレコードはウェストコーストの史上名高いレコーディング・エンジニア、ロイ・デュナンが製作したコンテンポラリーレコードのものであることと、4/27の彩球オーディオ倶楽部の例会に、わざわざ久喜の文化会館まで先生自らお越し頂き、その時の「吉田さん」の6L6Gプッシュプルアンプが、「青白い整流管があやしく灯り、高域から低域まで、いかに、バランスの良い聴きやすい再生音であったか」の説明がありました。(勿論、今回のレコード鑑賞会に使用されたアンプのことです)

 

 

 

 

 

当日、皆様に聴いて頂いたレコード(レコード名と曲名)は次の15曲でした。

 

 

 

 

(1)ケッセル・プレイズ・スタンダーズ (Contemporary

    「スピーク・ロウ」、「わが愛はここに」

(2)レッツ・クック (Contemporary

    「ジャスト・イン・タイム」

(3)ポール・ウィナーズ・スリー (Contemporary

    「マック・ザ・ナイフ」

(4)ノー・ホールズ・バード (Famous Door)

    「アイ・キャント・ビリーブ」、「メモリーズ・オブ・ユー」

(5)ワン・モーニング・イン・メイ (Marshmallow)

    「ワン・モーニング・イン・メイ」、「シャレード」

(6)シングス・ハロルド・アーレン (Concord)

    「マイ・シャイニング・アワー」、「ストーミー・ウェザー」

(7)雨の日のジャズ (Capitol)

    「雨のブルース」、「レイン」、「九月の雨」

(8)ベイシー・アンド・ズート (Pablo)

    「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」、

「ミーン・トゥ・ミー」

 

 

 

 

 

 

 

 

いずれの曲も、小ホール全体に響き渡る素晴らしい音質で聴くことが出来ました。これは、勿論、先生の厳選されたレコードそのものによるところは勿論ですが、アルテック604−8Gと安藤さん制作のエンクロージャーの相性の良さが際立つスピーカーと、この日の為に吉田さんが、満を持して、真空管を「6L6G」から「WE350B」に差し替えてのプッシュプルアンプのおかげだと、つくづく思った次第です。

 

 「マック・ザ・ナイフ」のバーニー・ケッセルのギター、レイ・ブラウンのベース、シェリー・マンのドラムスの3者の、のびのびとした音の響きが素晴らしかったのですが、圧巻はレイ・ブラウンのベースが生々しかったことでした。

 

 「ノー・ホールズ・バード」は、先生が最近手に入れられたアルバムのなかで知名度は低いけれども「当たり」と感じられたアルバムで、実力派ピアニスト「デイヴ・マッケンナ」のリーダーアルバムです。「アイ・キャント・ビリーブ」は、マッケンナの歯切れの良いピアノプレイと、アル・コーンとスコット・ハミルトンの2本の心地よいテナーサックスのプレーが絶好調でした。

 

 「ワン・モーニング・イン・メイ」では、「現在、国内にはマイナーながらも良心的で良質なジャズレコードを市場に送り出しているレーベルがある。西の澤野工房と東のマシュマロレコードだ」とされ、今回はマシュマロレコードから999枚限定で発売されたモダン・テナーの旗手「ハービー・スチュワート」の上記アルバム(1992年に横浜、関内ホールでの録音、レコードは目にも鮮やかな赤盤でした)からテナーサックスとクラリネットの曲が紹介されました。あらかじめ来場されていた、マシュマロレコードを主宰されておられる上不三雄さんが先生から急遽紹介され、ご挨拶がありました。そして上不さんからその年の「山形」でのライブ録音盤「ハービーズ・ヒア」から一曲「グッド・バイ」の紹介がありましたが、両方のアルバムとも大好評でした。

 

 最後の「ベイシー・アンド・ズート」では、敏腕ノーマン・グランツが晩年、この大御所2名を起用して、パブロレーベルから1975年に発売されたアルバムから2曲紹介されました。和んだ雰囲気の中での両巨匠の名人芸の応酬プレーには思わず聞き惚れてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「ハービーズ・ヒア」と「ベイシー・アンド・ズート」のジャケット(写真7,8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回、用意した再生装置は次のとおりです。

 レコード・プレーヤー:YAMAHA GT750 ダイレクト・ドライブ

 カートリッジ:Ortofon SPU-AE(吉田さん)

 MCトランス:Ortofon 0.32M(吉田さん)

 プリアンプ:MARANZ Model-1150 プリ部使用(吉田さん)

 メインアンプ:350Bプッシュプルアンプ(吉田さん)

        829Bプッシュプルアンプ(横山さん)

       「この横山アンプはコンサートの後半に使用され、

吉田アンプ同様、好評を博しました」

 スピーカー:Altec 604−8G (38p2way同軸型

 エンクロージャー会員自作)(安藤さん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩球オーディオ倶楽部の4名の会員(吉田、五十嵐、横山、石風)は、当日9:30に会場裏手の駐車場に集合し、それぞれ機材を会場小ホールに運搬の上セッティングを開始しました。最初に慎重にスピーカーの位置決めを実施し、350Bプッシュプルアンプの1段目スイッチを入れた後、23分後にB電源用の2段目のスイッチを入れると、水銀整流管「866A」がボーっと灯りました。

 

 

 

 

 

 

 

吉田さんのアンプ(写真9

 

 

 

 

 

 

 

オルトフォンカートリッジ「SPU−AE」をプレーヤーのアームに取り付け音出し開始です。持参の試聴用レコードをみんなで、会場の前後左右で聴いての最終調整です。過去の経験もあって、約1時間後にはほぼセッティングが終了致しました。関口先生も13:00に会場入りされ、13:30の開演前にもう一度入念に最終調整を実施し、予定どおり順調にコンサートを開始する事が出来ました。

 

 

 

 

 

 

 

横山さんのアンプ(写真10

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のレコードコンサートは女性の来場者の方が非常に多く、中間の休み時間には前方のブースにおみえになり、「マランツのプリアンプ」を指さされて「昔、このようなアンプでよく音楽を聴いたわ」等のお話もありました。また、何人かの方に「今日のコンサートはいかがですか」と声をお掛け致しましたところ、「高域から低域まで非常に聴きやすい音ですね。レコードの音の素晴らしさを再認識致しました」等、大方の方から、うれしい高評価を頂きました。

 当倶楽部がこのように地域活動の一端を担うことが出来て、「良かった!」とつくづく感じた次第です。

 

                 (石風嘉彦記)

 

 

 

 

 

〖添付写真の説明〗

 写真1 小ホール会場風景

 写真2 「ジャズの聴き方楽しみ方5」広報紙

 写真3 「LPレコード鑑賞会」広報紙

 写真4 キャロル・スローン サブウェイ・トークンズの

オリジナルLPジャケット

 写真5 関口先生の講義風景

 写真6 マシュマロレコード上不さんのご挨拶

 写真7 「ハービーズ・ヒア」ジャケット

 写真8 ベイシー・アンド・ズート (Pablo)

 写真9 吉田さんのアンプ

 写真10 横山さんのアンプ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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